♯moserlover オーナーズボイス Vol.2

2022.02.15

“ビジネスを超えたフレンドやファミリーのような関係をつくってくれる
特別なブランドですね” B氏

【PROFILE】
愛知県在住、B様
所有する2本のH.モーザーと共に時を過ごし、日々の暮らしの中で大切に愛でていらっしゃるB氏。「つくり手の顔が見える」ことが嬉しいと語るB氏ならではのこだわり、独自の感性が光る時計との付き合い方について話を伺った。

取材・撮影=レフトハンズ

-B様の「パイオニア・パーペチュアルカレンダー」は市販のものに特別に手を加えた、いわばB様スペシャルモデルとお伺いしました。ヘアスプリングは本来ならば1 重巻きのところを2重巻きにしているおそらく世界に2つとないモデルで、どのような経緯で、そのようなオーダーをされたのでしょうか?

▲B氏のための特別仕様となったパイオニア・パーペチュアルカレンダー(左)。

B:実は2017年夏、CEOのエドさんことエドゥアルド・メイランさんが来日された際に「ヘアスプリング2本のダブルヘアスプリングにはできませんか?」と直接お聞きしました。

田中(H.モーザー ブランドマネージャー 以下、田中):昔は通常モデルにもダブルヘアスプリング搭載機があったのですが、メイラン家に経営が移ってからは、トップモデルのみに採用するという方針になっていました。

B:せっかくH.モーザーの時計で、しかもパーペチュアルカレンダーを手にしたので、無理を承知でお願いしてみたわけです。あわせて色々とお話をさせていただいている中で「それでは、スイスに来てみませんか?」とおっしゃっていただいて。後日、正式にお願いをして、思い切ってスイスへ行きました。10月下旬のことです。

▲中央の小さな針がインデックスを指して「月」を示す。この写真の場合、1を指しているので1月14日であることがわかる。

田中:せっかくお時間を作ってスイスにお越しいただけることになったので、ご本人には内緒でサプライズを本社と一緒に計画していました。

B: スイスではエドさんと、セールスディレクターのニコさんことニコラス・ホフマンさんと本社ツアーの後でお昼をご一緒させていただきました。その時に「そういえば夏にお願いしたあの時計はいつくらいにできそうですか?」とお聞きしたら、「うーん、年明けくらいかな」と言われ、まぁそれはそうだよな、そのくらいはかかるなと思いました。ところが昼食を終えて本社に戻ったら「実は、もうできていました!」と目の前に持ってきてくれました。もう、驚くばかり、そしてこのうえなく嬉しかったですね。加えて、実際にアッセンブリングしてくださった時計技師のマルチナさんと時計技師トップのラファエルさんまでご紹介してくださいました。もう感無量で気の利いたご挨拶、お礼も言えなかったような…  あの時のことは今でも鮮明に記憶していますよ。

―一度がっかりさせて、喜んでいただく演出をされたんですね。エドゥアルド社長の遊び心が垣間見えるようなエピソードですね(笑)。

田中:そしてB様スぺシャルモデルとしてもう1箇所カレンダーが特別仕様になっています。3時部分にあるカレンダーは、通常は黒いディスクに白い数字なのですが、B様のモデルには白いディスクに黒い文字になっています。ここでもうひとつエドゥアルド社長のエピソードがありまして、ちょうど新しいカレンダーディスクを開発中で、B様のモデルにはその新しいカレンダーを搭載していると勘違いをされて、その新しいカレンダーディスクの説明をしてくれたのですが、新開発のカレンダーディスクではなかったのです。

B:それが判明した時に、エドさんからいただいた手紙がこれです(笑)。わざわざ謝罪のお手紙を送ってくれて、私にはいい記念品になりました。そして最終的には新開発のカレンダーに交換していただきました。

▲エドゥアルド社長からB氏に送られた謝罪の手紙。

―B様は大切にこの手紙を保管されていて、H.モーザー愛を感じますね。また、エドゥアルド社長の誠実な性格もよくわかるエピソードですね。そして、本当に希少な時計ですね。

▲このシリーズで白いカレンダーディスクが使用されているのは、B氏のこの個体だけ。

B:ふつうの時計ブランドであれば、実際につくっている人の顔など見えないじゃないですか。でもH.モーザーではスイス本国のCEOのエドさんやセールスディレクターのニコさんの顔がみえていて、直接お話する機会を作ってくださるので、そういう意味では、ビジネスを超えたフレンドやファミリーのような関係をつくってくれる特別なブランドですね。

▲カタログにはエドゥアルド社長からの手書きメッセージが。「あなたは真のモーザーの友人です!」と書かれている。

▲使用せずに大切に保管しているというノベルティの数々。

-H.モーザーの魅力はどこにあると思いますか?

B:じっくり、うっとりと眺めていると、色々と気づくことがあります。例えばフュメダイヤルの仕上げや、ロゴの「e」や「&」の印刷が微妙に個体によって違うことに気がついたりします。それも含めて「VERY RARE」なのだと(笑)。自分の時計の個性なのかなと思って愛でています。手仕事でつくっているからこそなのでしょう。

実はシンガポールに行った時に、とあるH.モーザーの正規販売店でシリアルナンバーの1番違いの自分の時計の兄弟モデルを偶然見つけたのですが、インクのノリが違うのか、そちらの方がロゴの見え方がちょっとだけはっきりしていました。最初は「あれ?」と思ったのですが、どちらがいいか悪いかではなくて、やはり個性なんだと、自分だけの1本、「VERY RARE」とはこういうことなのだと自分なりに勝手に時計オーナーの立場から再解釈しました(笑)。H.モーザー社の掲げる企業理念「VERY RARE」を定義・構成する3要素とは違うのですが。

▲シンガポールの時計店で、1番違いのシリアル番号を有した時計と遭遇。記念に撮った写真を見せてくれた。

―そんな「VERY RARE」なH.モーザーに、いつどのようなきっかけで出会われたのでしょうか?

B:時計や時間、もっと言えば数字が子どもの頃から好きでしたが、しばらく忘れていました。それが2015年くらいですかね、それまでずっと仕事で忙しくしていたのですが、部署が変わって少し自分の時間が持てるようになった時に、ふらっと時計が気になって。ちょうどそのタイミングで、H.モーザーのイベントにお誘いいただいたように記憶しています。

▲B氏が愛用する2本。(左)パイオニア・パーペチュアルカレンダー / 手巻き、ステンレススチールケース。(右) エンデバー・パーペチュアルムーン / 手巻き、18KRGケース。

B:イベントの時にエドさんのお父上のジョージさん、通称パパ・メイランさんもいらしていて、パーペチュアルカレンダーをされていました。会食の合間に「どうやって日付が変わるのかな?」なんて言いながらじっくり見せていただいた記憶があります。その時にいいな、面白いな、綺麗だなと! と思ったのが始まりでしたね。プラネタリウムが好きで、星への興味がありましたので、ムーンフェイズの時計が欲しいと思い調べていたら、雑誌などでこのエンデバー・パーペチュアルムーンを見つけました。

けれどH.モーザーは「VERY RARE」なブランドなので、街中の時計店では置いてないため、他ブランドのスモールセコンドの時計にしようと迷っていたところ、急に横からひょいと、この時計が目の前に現れたんですよ!この時計を見た途端、直感的に「これだ!」と即決しました。価格は、検討していたスモールセコンドの倍以上しましたが、まったく後悔はしていませんし、満足と喜びしかありません。それが2016年の春くらいでしたね。そこからどんどんH.モーザーの虜になってしまいました。

―最初に入手されてから、6年目でしょうか。どんなところを気に入っていらっしゃいますか?

B:ローズゴールドのケースの綺麗さと、ムーンフェイズの部分が満月になって、その後また三日月になり、新月になるとダイヤルと同じ色になって――という具合に、表情が刻々と変わる様子が面白いです。実はメモリのように線が入っているので、あと何日で上弦の月になり、下弦の月になるかも分かります。機構的にも超高性能で、1,027年に一度しか理論上狂いません。普通は月が29.5日周期だから、59個の歯車が1日1歯車ずつ動くのですが、このモデルは時針と連動しているのでゆっくりゆっくり、本当の月の満ち欠けのように動いていきます。一般的なムーンフェイズの時計は、1日1回カシャンと切り替わるだけなので、その点でもこの時計は気に入っています。

それと、この時計はヘアスプリングが1重なので、置いておく向きによってごくわずかに進んだり遅れたりするものですから、それも面白くて。最初の頃は、この向きで置いて1日経ったらどのくらい進んだ、遅れた、というような記録を真面目にノートに記して観察していました。すると時計の癖が分かってきて、例えば今日着けようと思ったら、しばらく着けていなかったので20秒進んでいるな、であれば3日前からこっちの向きに置いて、おそらく当日ちょうどいい時間になっているな、といった具合に調整します。冬と夏でも温度が違うので、また癖が変わってきますが、だいたい置く向きによって、重力の加減で調整できる、ということを発見ました!予測が当たると「おおっ!」と嬉しくなります(笑)。私の時計の楽しみ方のひとつです。

―それはすごいですね! 科学者の実験のようです。

B:それと、購入した後で知ったことですが、裏を見るとこのシリーズだけパワーリザーブ表示が他とは一線を画しています。この赤い三角がパワーリザーブインジケーターなんですが、7日巻きでその間にムーブ側の外周を180°近く動くんです。動き幅が、通常のモデルよりも圧倒的に大きいんですよ。赤い三角が毎日こうして派手に動いているので、生きてるな、元気に動いているな、巻き上げる時にはまさにいま命を吹き込んでいるんだと感じらます。裏側なのでふだんは見えませんが、このモデルにしかない密かな楽しみを味合わせてくれるという点も気に入っています。

▲上部中央にある赤い三角が、現行モデルにはないB氏お気に入りのパワーリザーブ表示。

―デジタルとは違って、機械だけれど生き物のような、そんな対話できる感覚が魅力なんですね。

B:現行のモデルはパワーリザーブが普通の小さなインジゲーターになっていて、ある意味技術は進んだのでしょうけれど、こちらの方が生きている感じがしていいな、と思います。

―そんな1本目があり、2本目となるパイオニアはどんな理由で欲しいと思われたのでしょうか?

B:エンデバーはゴールド製で革ベルトなので、会社に毎日着けていくのには気が引けました。当初パイオニアが出た時はラバーベルトもあって、120メートル防水でしたから、これであれば気楽に毎日着けていられるな、と思いました。さらにエドさんはじめ、開発陣が新しくつくったものだから、ぜひ試してみたいなと。ふだん使いできることが大きなポイントでしたね。

-この時計の魅力はどこですか。

B:時計は毎日着けていたいです。このモデルにはチタンとゴールドもありましたが、私が手にしたモデルはステンレスなので重量感があって、会社ではよくペーパーウェイト代わりにデスクに置いています(笑)。ブレスレットは後から出た時に変えてみました。

ただ、私の言うことをエンデバーほど聞いてくれないんですよ。さっき置き方によって時計の誤差をある程度コントロールできると言いましたが、このパイオニアは特注でダブルヘアスプリングにしていただいたので、そもそもの重力の影響による誤差低減というダブルヘアスプリングの目的・機能がしっかりと働いて、どの向きに置いても誤差にほとんど変化がありません。強いて言うと、そこが問題でしょうか(笑)。

―手間がかかる子ほど可愛いと言う魅力が、エンデバーにはあったんですね。

B:エンデバーは言うことを聞いてくれる良い子で、パイオニアは我が道を行く頑固なしっかり者ですね(笑)。ところで、この時計にはパーペチュアルカレンダーの機能が付いていて、閏年にはちゃんと29日まで進んで切り替わるのですが、裏側のここを見ると4年の周期が分かります。それで12月31日から1月1日に変わる時に切り替わる瞬間を見たいと思い、動画を撮ってみたのがこちらです(スマートフォンで動画を見せていただく)。皆が「明けましておめでとう!」と言っている時に、自分だけ時計とにらめっこして時計の動きを見て楽しんでいます(笑)。

▲年を表す数字が記された星型のパーツが4年の周期を表し、年の切り替わりに動く。黒い箇所が閏年に相当する。

―ここまで深く、自分の時計を愛する方はなかなかいないですよね。いまH.モーザーに対してはどんな想いがありますか?

B:いつまでもレアであって欲しいのですが、ただ、エドさんの顔を思い起こすと、H.モーザーというブランドをもっと多くの人に知って欲しいとも思いますし、複雑な心境です。人に見せた時に「フーン……、素敵だけど知らないな」と言われると寂しいですし、一方で、分かる人に分かっていただけると嬉しく感じます。

こんなに小さいものがなぜこんなに高価なのだろうかと以前は思っていましたが、スイス本社の工房に連れて行っていただいて、逆に小さいからこそものすごく手間暇がかかって難しいということを知りました。先ほどもお話ししましたが、実際にこの時計を組み立ててくれたマルチナさんとお会いして、この方が精魂込めてつくってくれているのだと知り、さらに愛着が増しました。その時計を身に着けている自分が誇らしいと言うとおこがましいのでが、オーナーになれて本当に嬉しいと思っています。

▲スイスで待ち受けていたサプライズ。ダブルスプリングを搭載しアッセンブルしてくれた時計技術師達との3ショット。

―時計の文字盤に、そこに関わる様々な人たちの顔も重なって見えますね。

B:スイスではヘアスプリングの巻き上げ体験をさせていただいたのですが、とても難しくて、20分近くやってもまったく出来ませんでした。いまとなっては良く分かりますが、出来ないのは当然で、素人に出来るわけがないのです。小さなネジひとつつくるのも大変な作業です。この時計はそういう人たちの高い技術と情熱の結晶なのですから、畏敬の念を抱きますし、見ていると彼らと一緒にいるように感じられますね。

▲スイスの工房で巻き上げ体験をした際にもらった記念のヘアスプリング。髪の毛ほどの、目に見えないくらいの細さだ。

▲スイスでは各所を見学しながら、時計づくりの神髄を目の当たりにすることができた。

―お話を伺っていますと、ただ良い時計を買ったというだけではなくて、スイスに行かれてつくり手と出会い、思い出となる大切な時間もつくってきたのですね。

B:まさにそうです。そういえば、スイスの本社に色々なお菓子を日本からお土産に持っていったら、エドさんが「日本のB様からお菓子をいただいたよ」と回覧メールを送ると、あっという間に社員たちが集まってきて、めいめいが選んだお菓子を手にして、また持ち場へ戻っていくんですよ(笑)。その様子がおかしくて、嬉しくて。社内を見学していると「お土産ありがとう、美味しかったよ」と誰もが声をかけてくれました。とても良い思い出になりました。
それに、ランチに出かけた時には、エドさん自らが運転するクルマに乗せていただいて、そんな温かいおもてなしに、さらにファンになりました。

▲昼食に向かうため、エドゥアルド社長自らが運転してくれた。エドゥアルド社長ほかスイス本社の人たちとの交流は、一生の思い出となったという。

B:ところで、以前パイオニアの時計をしてシンガポールのマリーナベイ・サンズのプールで泳いだのですが、120M防水ですから、着用して試しました。全く問題ありませんでしたよ。撮影するためにスマホを防水ケースに入れたのですが、スマホの方が心配でした(笑)。

▲シンガポールのマリーナベイ・サンズのプールでパイオニアと共に水中へ。「どんなに高価なものでも、使ってこそ価値がある」というのがB氏の持論だという。*カレンダーディスクは交換前

―自分の時計と日々対話して、高いものであっても実験もする。それも時計愛の表れなのですね。

B:はい、結構チャレンジャーだねと言われますが(笑)。でも私にとって、時計は使ってなんぼです。

―Bさんこそがパイオニア、否、チャレンジャーですね。

B:好きでたまらないので。いまのマイブームとしては、Dバックルのロゴが気になっています。新旧の違いで何種類か存在しているので、昔のこのロゴもいいな、欲しいな、とか考えています。H.モーザーに対する探求心とこだわりが、いつまでも尽きませんね(笑)。