創業者と未来への想いを込めた時計「パイオニア コレクション」連載Vol.3

2021.07.30

H.モーザーのパイオニア コレクションは、2013年にブランドを引き継いだ若きCEO、スイス時計界の未来を担うエドゥアルド・メイラン氏の熱き情熱から生まれた最初のコレクション。高級時計であると同時に優れた機能性と防水性を備え、フォーマルなシーンからビジネス、さらにスポーツシーンにまでフィットする「いつでもどこにでも着けて使える、楽しめる」腕時計だ。最終回となる今回は、パイオニア コレクションの個々のモデルをご紹介する。しかも、これまでの記事ではあまり触れてこなかった、世界中の時計愛好家が絶賛する、すべて自社製の機械式ムーブメントの機能と魅力もご説明したい。

センターセコンド、パーペチュアルカレンダー、トゥールビヨン
実用的で先進的な自社製ムーブメントを搭載した“機械式時計の未来”を先取りしたパイオニア コレクション

新世代ムーブメントを搭載する「パイオニア・センターセコンド」

まずご紹介したいのは、パイオニア コレクションの中でいちばんベーシックなモデルであり、コレクションの未来を開く新世代モデル「パイオニア・センターセコンド」だ。
2016年に最初に登場したのが、DLC加工されたブラックでツヤのあるチタン製のミドルケースに18Kレッドゴールド製のサイドピース、べゼル、さらにケースサイドにはめ込まれた4枚のチタン製プレートで構成される「マルチプル構造」のケースを採用したプレミアムモデルである。

ドーム型のサファイアクリスタル風防からケースサイド、そしてストラップが完璧に調和して生まれた優雅で美しいフォルム。レッドゴールドとDLCコーティングを施したチタン。そのシックな色合わせは、美しいフュメダイヤルと共に時計愛好家を魅了した。

さらに2017年には「マルチプル構造」ではなく、ステンレススティール素材にCNC(コンピュータ数値制御)旋盤を使って一体構造で削り出すという、画期的な方法で製造されたSSケースを使ったモデルも追加された。

そして、2017年に登場したこのSSモデルからこのモデルすべてに搭載されることになったのが、機能的にはいちばんシンプルで、しかもメカニズム的には新世代に位置付けられる、間違いなく今後、多彩なモデル展開のベースムーブメントとして開発された自動巻きムーブメント「キャリバー HMC200」である。

キャリバー HMC200は、このセンターセコンドモデル合わせて設計され、H.モーザー傘下のプレシジョン・エンジニアリング社が開発・製造した新世代ムーブメント。あらゆるオケージョンで使用されることを想定し、耐衝撃性や安定性を高めるために振動数もこれまでのモーザーの時計の基本仕様であった1万8000振動/時から、2万1600振動/時にアップ。
しかし、振動数を上げてトルク(力)がより必要になったにも関わらず約72時間パワーリザーブというムーブメントの持続時間を確保することを実現した。
両方向の自動巻き機構も、いわゆる“マジックレバー”を使ったシンプルで機能的なラチェット式で、ローターの中心軸には、スムーズで摩擦損失の少ないローターの動きを実現するボールベアリングが搭載され、優れた巻き上げ効率を実現している。

さらにムーブメントの装飾も、2種類の線幅を使ってコート・ド・ジュネーブ装飾を施すモーザー独自の「モーザー・ダブルストライプ装飾」であり、かつてのH.モーザーの伝統を引き継いだ「モーザー・シール」刻印が施されている。そして、この美しい仕上げやパーツの動きがシースルーバックのケース裏からいつでも楽しめる。
加えてこの「センターセコンド」には、どのモデルよりもH.モーザー自慢の美しい「フュメ」ダイヤルのカラーバリエーションが数多く用意されている。つまり文字盤カラーの選択肢も多い。
機能的にはシンプルだが、H.モーザーの未来を拓く先進の機能と、ブランドの歴史と独創の技術を兼ね備えていること。あなたの好みにあった多彩なカラーの「フュメダイヤル」が選べること。それがキャリバー HMC 200とその搭載モデル「パイオニア・センターセコンド」の唯一無二の魅力だ。

控えめな見た目もメカニズムも独創的!「パイオニア・パーペチュアルカレンダー」

パーペチュアル(永久)カレンダーとは、日付、曜日、月の表示を、4年に一度のうるう年と日付の増減まで歯車輪列でプログラムし、100年間は調整なしに正確に行えるカレンダー機構のこと。アブラアン・ルイ・ブレゲを筆頭に歴史に名を残す伝説の時計師たちが競ってその開発・製造に取り組み、今も機械式複雑機構の代表ともいえるメカニズムとして知られる。

ところで、パーペチュアルカレンダーモデルは機構の複雑さデリケートさから、かつても今も、使う際にはそれなりの繊細な配慮が欠かせない。だから「日常使用にはあまり適さない」時計コレクター向けの腕時計だった。
ところがこのモデルは「センターセコンド」と同様の、18KレッドゴールドとブラックDLC加工を施したチタンを組み合わせた「マルチプル構造」で12気圧防水のスポーティな高機能ケースを採用。さらに、一体構造のSSケースのモデルのモデルも用意されている。そのため「いつでもどこにでも着けて行ける、毎日着けて楽しめる」パイオニア コレクションのコンセプトを体現した、スポーツシーンでも使えるパーペチュアルカレンダーモデルに仕上がっている。

しかも日付、曜日、月の表示窓が並ぶパーペチュアルカレンダーモデルの一般的な表示とは一線を画し、月の表示を時分針の下にあるごく短いスケルトン針で文字盤のアワーインデックスを示すというユニークな針式を採用。また、うるう年の表示もあえてシースルーのケースバックから眺められるムーブメント側に。だから、外観からは“パーペチュアルカレンダーモデルに見えない”控えめで落ち着いた外観を実現している。まさにH.モーザーらしい、落ち着きのある独創的な文字盤デザインと言える。

この画期的な文字盤デザインを実現した手巻きムーブメント「キャリバー HMC 800」は、機能面でも独創的だ。時間をかけて表示を切り替える一般的なパーペチュアルカレンダーモデルと違い、午前0時に瞬時に日付が修正される「パーペチュアル・フラッシュ・カレンダー」機能を実現。大の月と小の月を自動判別して日付を正確に送るのはもちろん、うるう年でない年の2月末には28日から3月1日に、4年に1度のうるう年の2月末には29日から3月1日にスムーズに日付がジャンプする。

そのうえ地味ではあるがユーザーにとってうれしい、日常的に使う際にとても便利で画期的な機能をこのパーペチュアルカレンダー機構は備えている。それは何と、カレンダーの切り替え動作が行われる深夜でも、カレンダーの修正操作、それも日付などを前に戻す逆行操作まで、いつでも安心してできること。
日付や日付&曜日表示付きのカレンダーモデルでも、こうした深夜の操作や逆行操作は、歯車や表示ディスクが壊れるなどの致命的な故障につながるのでやってはいけないのが機械式時計の常識。特に逆行操作ができるパーペチュアルカレンダー機構はまずない。ところが超複雑なパーペチュアルカレンダー機構でH.モーザーはこの大きな問題をクリアし、いつでも安心して操作ができる。

またこのモデルにはもうひとつ、リュウズによるカレンダーや時刻合わせの操作が確実に行える、H.モーザー独自の「ダブル・プル・クラウン」機構も搭載されている。このメカニズムは一段引き構造のリュウズの機能を、内蔵のカム機構を使って確実に切り替えるもの。
リュウズをまず1回引くことで、まずリュウズはカレンダー修正モードになる。さらにこのカレンダー修正モードから再びリュウズを押し込み、さらにもう一度引き出すと、時刻修正モードにすることができる。
一般的に採用されている、どのモードになっているかがわかりにくく、モード間の「遊び」が多くて操作が不確実になることもある二段引きや三段引きのリュウズと違い、操作が確実な一段引きで、しかもカレンダー修正と時刻修正、2つの機能を確実に切り替えて、安心して操作ができるのは素晴らしい。
さらに手巻きのパーペチュアルカレンダーモデルとして、できるだけ使いやすくする、つまり主ゼンマイを巻き上げる頻度を減らすため。さらに、カレンダー機構などを安定したパワーで駆動し高い精度を確保するため。この2つの目的のために、7日間というロングリザーブ仕様になっているのも、このキャリバー HMC800の魅力。文字盤9時位置にパワーリザーブインジケーターが搭載されているが、こちらも針式で「パーペチュアルカレンダーモデルに見えないシンプルさ」を損なわない、ごく控えめなサイズ、デザインになっている。

独自開発した金属素材・PE400製でフィリップス曲線の形状にしたシュトラウマン・ヘアスプリングをヒゲゼンマイに使ったムーブメントの振動数は1万8000振動/時と、H.モーザーらしいスロウビート。クラシックなチラネジ式のテンワを採用するムーブメントなので、チラネジの出し入れによる精度調整が簡単に行えるよう、2本のねじを外せば脱進調速機部分がモジュールとして簡単に取り外せる独自の「インターチェンジャブル(デタッチャブル式)・エスケープメント」構造が採用されているのも時計愛好家には魅力だろう。しかも、ムーブメントのアンクルとガンギ車は硬化処理を施したゴールド製という贅沢な仕様なのもうれしい。

加えて、ひと目でH.モーザーの腕時計とわかる、美しい「フュメ」ダイヤルもこのモデルの大きな魅力。
“パーペチュアルカレンダーには見えない”控えめな外観と、パーペチュアルカレンダーモデルとして独創的で最先端の機能を実現していること。それがキャリバー HMC 800と、このムーブメントを搭載する「パイオニア・パーペチュアルカレンダー」の唯一無二の魅力である。

いつでもどこでも着けていける実用的でタフなトゥールビヨン

「トゥールビヨン」とは、フランス語で「渦巻き」を意味する言葉。そしてトゥールビヨン機構は、今も“時計史上最高の天才時計師”と讃えられるアブラアン・ルイ・ブレゲ(1747〜1823)が、1801年にフランスで特許を取得したメカニズムだ。

そもそもは、洋服のポケットに収納され、地球に時計の位置が変わることが少なく、テンワやヒゲゼンマイ、アンクル、ガンギ車で構成される脱進調速機にかかる地球の重力の影響による姿勢差(時計の進み遅れ)が大きな問題になる懐中時計のために考案されたもの。脱進調速機全体をケージ(カゴ)の中に収め、主ゼンマイの力で常時、強制的にゆっくりと回転させることで、たとえ時計の位置が固定されていても、姿勢差を平均化する、つまり時計の進み遅れを軽減することができる。
そしてトゥールビヨンには、この機構部分をムーブメントの地板に固定するためにブリッジと呼ばれるねじで固定するアームで抑えるタイプと、機構全体が空中に浮いているように見せる視覚的効果を得るためにブリッジをなくした“フライング(=浮かんでいる)トゥールビヨン”というタイプがある。
ただ、どちらのタイプでも、トゥールビヨン機構は、ケージやその中の脱進調速機、つまりテンワやヒゲゼンマイなど構成するパーツが時計部品の中でも特に小さくしかも精密さが求められるものだけにデリケートな機構であり、設計、製造、組立、調整、メンテナンスには細心の注意が求められる。そのため、トゥールビヨンはパーペチュアルカレンダーと共に機械式複雑機構の代表であり、今も時計業界ではこの機構の改良、さらなる進化への挑戦が続いている。

H.モーザーは、パイオニア コレクションで、このトゥールビヨンモデルをパーペチュアルカレンダーモデルと同様に、18KレッドゴールドとブラックDLC加工を施したチタンを組み合わせた「マルチプル構造」のケース、またはCNC旋盤削り出しで一体成型のSSケースで世に送り出した。
どちらも12気圧防水を実現し「いつでもどこにでも着けていける。毎日着けて楽しめる」複雑時計に仕上がっている。ここまで高い防水性を備えたトゥールビヨンモデルは、時計界でもごくわずかしか存在しない。
このケースに収められる、視覚的にもドラマチックな動きが楽しめるフライングトゥールビヨン機構を搭載した手巻きの「キャリバー HMC 804」は、パイオニア コレクションの他のモデルと同様に、約3日間のロングパワーリザーブ。しかも、通常の脱進調速機より複雑なトゥールビヨン機構を搭載しながら、振動数はH.モーザーとしてはハイビートの2万1600振動/時を実現している。

そして時計愛好家にとって見逃せないのが、文字盤表側、6時位置の窓からその動きが楽しめるフライングトゥールビヨンの、チラネジ付きのテンワの中で振動する自社製のシュトラウマン・ヘアスプリング。何とこのトゥールビヨンモデルでは、精度を追求するために、ペアで製作され対称性を確保したヘアスプリングを上下に搭載する、H.モーザーの現行モデルの中でもごくわずかしか採用されていない希少なメカニズム「シュトラウマン・ダブルヘアスプリング」が採用されているのだ。この一対のヘアスプリングは、一方が縮む際にもう一方が伸びるという対称的な動作で、重心のズレをダイナミックに打ち消す構造になっている。特に機械式時計マニアにとっても、また技術的な視点からも、その価値は高い。

さらに、ひと目でH.モーザーの腕時計とわかる、美しい「フュメ」ダイヤルもこのモデルの他にはない魅力。
独創的な技術を搭載し、しかも「いつでもどこでも着けられる。毎日着けて楽しめる」トゥールビヨンモデルとして、このモデルは時計界でも唯一無二の存在だ。

新世代ムーブメントを搭載した「パイオニア・センターセコンド」。“パーペチュアルカレンダー”に見えないシンプルな文字盤デザインと先進機能が魅力の「パイオニア・パーペチュアルカレンダー」。そして、ブランドでも希少な「シュトラウマン・ダブルヘアスプリング」を搭載するフライングトゥールビヨンモデル「パイオニア・トゥールビヨン」。この3つのモデルは、どれもH.モーザーにしかない、独創的なデザインと機能を備えている。

この中で、あなたが人生の時を共にする1本を、この機会にぜひ見つけてほしい。

文=渋谷ヤスヒト